日常の喧騒から少しだけ距離を置き、大切な人と静かに語らう時間。30代、40代という忙しくも充実した日々を過ごす私たちにとって、週末の旅は単なる観光ではなく「心のリセット」であってほしいものです。そんな願いを叶えてくれる場所として、私が何度も思い描くのが、箱根・宮ノ下という土地、そしてそこにある「富士屋ホテル」です。
箱根には数多くの名宿がありますが、宮ノ下という場所は少し特別な空気を纏っています。標高約400メートル。箱根湯本の活気ある雰囲気とは一線を画し、山々の深い緑と、どこかノスタルジックな石畳の坂道が、訪れる人を優しく迎え入れてくれます。この地に足を踏み入れた瞬間、時計の針が少しだけゆっくりと回り始めるような、不思議な感覚に包まれるはずです。
今回の記事では、私自身が実際に宮ノ下を訪れ、富士屋ホテルで過ごした1泊2日の体験をもとに、その魅力を余すところなくお伝えします。「どの宿を選べば失敗しないだろうか」「忙しい日々の疲れを本当に癒せるだろうか」と、宿選びに慎重になっているあなたへ。この記事を読み終える頃には、宮ノ下の柔らかな風と、歴史あるホテルの温もりが、あなたのすぐそばにあるように感じていただけるはずです。
創業から140余年。明治、大正、昭和、そして平成、令和へと受け継がれてきた「本物」のホスピタリティ。単なる贅沢ではなく、文化と歴史に裏打ちされた心地よさが、そこにはあります。夫婦やカップルで、お互いの存在を再確認しながら、静かに流れる贅沢な時間を楽しむ。そんな理想的な週末の過ごし方を、プロの旅行ブロガーの視点から紐解いていきましょう。
1|この地域の温泉が支持される理由:宮ノ下という「別世界」
箱根といえば、誰もが知る日本屈指の温泉地です。しかし、その中でも「宮ノ下」がなぜ大人たちにこれほどまで支持され続けているのか。その理由は、一言で言えば「静寂と風格の共存」にあります。
宮ノ下温泉は、箱根七湯の一つとして数えられる古い歴史を持ちます。江戸時代から続くこの温泉地は、古くから多くの旅人を癒してきました。しかし、明治以降、この場所は「国際観光地・箱根」の顔としての役割を担うようになります。西洋の文化がいち早く流入し、和と洋が絶妙に混ざり合った独特の街並みが形成されました。この「和洋折衷」の文化こそが、30代、40代の感性に心地よく響くのです。
また、宮ノ下は「箱根のへそ」とも言える立地にありながら、観光客の喧騒から一歩引いた落ち着きがあります。駅を降りると、そこにはアンティークショップやおしゃれなカフェ、パン屋さんが点在し、そぞろ歩きを楽しむのにちょうど良い規模感です。派手なアミューズメント施設はありませんが、代わりにあるのは、木々のざわめきや、古き良き日本の面影を残す建物たち。この「何もしない贅沢」を許容してくれる空気感が、週末の癒しを求める人々にとって、最高の処方箋となるのです。
泉質についても触れておく必要があります。宮ノ下の湯は、古くから「美肌の湯」として親しまれてきました。ナトリウムー塩化物泉という泉質は、肌に優しく馴染み、湯冷めしにくいのが特徴です。熱すぎず、身体の芯からじっくりと温まる感覚は、日頃のデスクワークや家事で凝り固まった身体を、解きほぐすように癒してくれます。
何より、宮ノ下の魅力は「時が止まったような感覚」です。最新のラグジュアリーホテルにはない、歴史の重みが醸し出す安心感。それは、人生の経験を積み重ねてきた大人だからこそ味わえる、深い安らぎなのです。

2|今回宿泊したホテルの第一印象と魅力:歴史に抱かれる充足感
国道1号線から一歩敷地内に入った瞬間、空気が変わるのを感じました。目の前に現れたのは、赤い欄干と荘厳な瓦屋根が印象的な、富士屋ホテルのメインダイニング「ザ・フジヤ」。写真で何度も見ていたはずなのに、実際にその場に立つと、圧倒的な存在感に息を呑みます。
チェックインの手続きを行う「本館」のロビーは、まるで映画のセットに迷い込んだかのようでした。高い天井、重厚な木彫りの装飾、そして磨き抜かれた床。そこには、140年以上という歳月が作り上げた、偽物のない「本物」の気品が漂っています。スタッフの方々の所作もまた、この建物の歴史を汚さない、洗練されたものでした。
私が今回感じた最大の魅力は、単なる「古さ」ではなく、それが「現役」として完璧に手入れされ、愛されているという点です。2020年の大規模改修を経て、建物本来の美しさはそのままに、現代の私たちが求める清潔感と快適さが完全な形で融合しています。廊下を一歩歩くたびに、床がかすかにきしむ音が心地よく、かつてここを訪れたであろう偉人たちの気配さえ感じられるような気がしました。
客室へ向かう道すがら、窓から見える日本庭園の緑が目に鮮やかでした。外の騒音は一切届かず、聞こえるのは時折鳴く鳥の声だけ。部屋の鍵を開ける瞬間のワクワク感は、大人になって忘れていた純粋な高揚感でした。
お部屋は、歴史的な趣を残しながらも、水回りなどは最新の設備が整っており、非常に機能的です。特に、高い天井がもたらす開放感は、現代の機能性重視のホテルではなかなか味わえません。窓際に置かれたアームチェアに深く腰を下ろし、持ち込んだお気に入りの本を開く。そんな何気ない時間が、これほどまでに贅沢に感じられるのは、やはり富士屋ホテルが持つ魔法のせいかもしれません。
3|温泉・露天風呂の癒し体験:プライベートと開放感の調和
富士屋ホテルの温泉体験は、期待を遥かに超えるものでした。このホテルの大きな特徴は、全客室のバスタブに天然温泉が引かれているという点です。つまり、部屋にいながらにして、宮ノ下の名湯を独り占めできるのです。
到着してすぐ、まずはお部屋のバスルームへ。蛇口をひねると、勢いよく温泉が溢れ出します。湯船に身を沈めると、無色透明でさらりとしたお湯が肌に吸い付くように馴染んでいきます。窓を開ければ、箱根の山々を抜ける涼やかな風が入り込み、自分だけの至福の時間が始まります。誰の目も気にせず、心ゆくまでお湯を愉しむ。これこそが、大人の旅にふさわしい贅沢の形ではないでしょうか。
しかし、2020年のリニューアルで新設された「スパ(大浴場)」もまた、外せません。フォレスト・ウィングの最上階に位置する大浴場は、客室の内風呂とは対照的な、開放感あふれる空間でした。
露天風呂に浸かると、目の前には箱根の外輪山がパノラマ状に広がります。夕暮れ時、空が藍色に染まり始め、山の端に一番星が光るのを眺めながらの入浴は、言葉にできないほどの感動を覚えました。内湯も広々としており、シックな黒を基調としたモダンなデザイン。歴史ある建物の雰囲気とはまた違う、スタイリッシュな癒しがそこにはあります。
お風呂上がりには、湯上がり処で冷たい水をいただきながら、火照った身体を休めます。不思議なことに、この温泉に浸かった後は、心が驚くほど軽くなっていることに気づきました。日頃抱えている悩み事や仕事のプレッシャーが、お湯と一緒に流れていってしまったかのようです。
温泉から上がり、お肌を触ってみると、しっとりと吸い付くような質感を実感できました。成分が濃すぎないため、長湯をしても疲れにくく、何度も入りたくなるお湯。パートナーとの旅であれば、お互いに「いいお湯だったね」と笑顔で合流できる、そんな穏やかな幸せがこの場所にはあります。
4|食事と滞在中の過ごし方:伝統の味と豊かな余暇
旅のハイライトの一つは、間違いなく「ザ・フジヤ」でのディナーです。昭和5年に建築されたこのメインダイニングは、天井を見上げれば636種類の高山植物が描かれ、柱には伝説の鳥たちが彫り込まれています。その空間に身を置くだけで、特別な夜が始まる予感がしました。
今回いただいたのは、伝統のフレンチコース。富士屋ホテルが守り続けてきたコンソメスープは、琥珀色に輝き、一口含んだ瞬間に凝縮された旨味が口いっぱいに広がります。奇をてらわない、王道にして至高の味わい。一皿一皿にシェフの矜持が感じられ、パートナーとの会話も自然と弾みます。
朝食は、同じくメインダイニングでいただく「ブレックファスト」がおすすめです。特に、厚切りのトーストと、絶妙な焼き加減のオムレツは、シンプルだからこそ素材の良さと技術の高さが際立ちます。窓から差し込む朝の光を浴びながら、ゆっくりとコーヒーを味わう。この朝食のためにまた来たい、そう思わせるクオリティでした。
食後の過ごし方も、富士屋ホテルならではの楽しみがあります。館内には「史料展示室」があり、ヘレン・ケラーやチャップリンなど、かつてこのホテルを訪れた著名人たちの足跡を辿ることができます。まるで美術館を巡るような知的な刺激は、大人の休日をより豊かなものにしてくれます。
また、広大な日本庭園の散策も忘れてはいけません。季節ごとに表情を変える木々、水面を揺らす鯉、そして風情ある温室。手入れの行き届いた庭を歩いていると、五感が研ぎ澄まされていくのがわかります。
夜が更けたら、ぜひ「バー・ヴィクトリア」へ足を運んでみてください。重厚な木製カウンターと、柔らかな照明。ここでは、熟練のバーテンダーが作るカクテルを片手に、静かな時間を過ごせます。スマートフォンを置き、目の前のグラスと、相手との対話に集中する。そんな「デジタルデトックス」なひとときが、心の奥底にある疲れを癒してくれるのです。
5|【ホテル詳細】客室・館内設備・サービスまとめ
ここでは、宿泊を検討される方のために、富士屋ホテルの基本情報を整理してお伝えします。自分たちのスタイルに合った部屋選びや、館内の楽しみ方の参考にしてください。
客室タイプの特徴
富士屋ホテルは、主に4つの宿泊棟で構成されています。
- 本館(登録有形文化財):明治24年築。最も歴史を感じる棟で、クラシックな雰囲気を重視する方に。
- 西洋館(登録有形文化財):明治39年築。華やかな洋風建築で、可愛らしい意匠が随所に見られます。
- 花御殿(登録有形文化財):昭和11年築。富士屋ホテルの象徴。各部屋に花の名前がつき、その花をモチーフにした装飾が施されています。
- フォレスト・ウィング:高台に位置し、現代的な快適さと眺望が魅力。スパ(大浴場)へのアクセスが最もスムーズです。
館内設備(大浴場以外)
- 室内・屋外プール:クラシックなデザインの室内プールは、年中利用可能。温泉水を利用した贅沢な造りです。
- ティーラウンジ「オーキッド」:庭園を望む開放的な空間。名物のアップルパイは必食です。
- ベーカリー&スイーツ「PICOT」:ホテル伝統のパンを購入でき、お土産に最適です。
- カスケードルーム:豪華なステンドグラスが美しい、かつてのダンスホールを復元したレストラン。
記念日・大人向けポイント
誕生日や結婚記念日などの利用には、あらかじめ伝えておくとメッセージカードなどの心遣いをいただける場合があります。また、全体的に静寂を重んじる空間のため、落ち着いて過ごしたい大人のカップルには最適です。
旅のアドバイス: 富士屋ホテルは、季節や曜日によって宿泊料金が変動します。特に平日の宿泊は、週末に比べてゆったりと過ごせるだけでなく、料金も抑えられる傾向にあります。
6|【アクセス】行き方・立地・周辺環境
初めて宮ノ下を訪れる方のために、アクセス情報を分かりやすく解説します。
電車でのアクセス(おすすめ)
- 箱根登山鉄道「宮ノ下駅」より徒歩約7分。 駅から宿までは緩やかな下り坂になっています。石畳の情緒ある道ですが、重いスーツケースをお持ちの場合は、少し足元に注意が必要です。
- 送迎について:宮ノ下駅からホテルへの定期的な送迎バスはありませんが、歩ける距離です。もし荷物が多い場合は、事前にホテルに相談してみるのも一つの手です。
お車でのアクセス
- 小田原厚木道路「箱根口IC」より約20分。 国道1号線沿いなので迷うことはありません。ただし、休日の箱根は非常に混雑します。特に午後の国道1号線(上り)は渋滞が激しいため、時間に余裕を持ったスケジュールを組むことを強くおすすめします。
「不便に感じやすい点」も正直に
- 坂道と階段:歴史的な建物を維持しているため、館内にはスロープが設置されているものの、若干の段差や移動距離が長い場所があります。足の不自由な方は、予約時に移動が少ない部屋をリクエストするのが賢明です。
- 周辺の夜の店:宮ノ下エリアは夜が早いです。夜遅くまで営業しているコンビニや飲食店は限られているため、夜食などは事前に用意しておくか、ホテル内の施設を利用するのが基本となります。
7|【口コミ・評判まとめ】実際に泊まった人の声
実際に宿泊した方々の声を、中立的な視点で要約しました。
良い口コミに多い意見
- 「タイムスリップしたような非日常感」:圧倒的な建築美と歴史の重みに感動したという声が多数。
- 「スタッフのホスピタリティ」:付かず離れずの、洗練された丁寧な接客が心地よいと評判です。
- 「食事が美味しい」:特にメインダイニングでのフレンチや、朝食のオムレツの満足度が非常に高いです。
- 「お部屋の温泉」:24時間いつでも好きな時に温泉に浸かれる贅沢さに、リピートを誓う人が多いようです。
気になる口コミ・注意点
- 「移動が大変」:棟が分かれているため、レストランや大浴場への移動が遠く感じることがあるようです。
- 「お値段が張る」:歴史とサービスを考えれば相応ですが、安さを最優先する方には不向きかもしれません。
どんな人なら満足しやすいか
- 歴史ある建築やアンティークな雰囲気が好きな方。
- 静かな環境で、丁寧なサービスを受けたい方。
- 「食」にこだわりがあり、クラシックな洋食を楽しみたい方。
- 大切なパートナーとの記念日を、落ち着いた空間で祝いたい方。
事前のチェックがおすすめ: 写真で見る以上に、実際の空間には迫力があります。お部屋の雰囲気や最新の宿泊プランなどは、サイトでこまめに確認しておくと、希望にぴったりの滞在が叶いやすくなります。
8|失敗しない温泉宿選びのポイント:30-40代の視点
せっかくの週末旅行。「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、私なりの宿選びの基準をお伝えします。
- 「コンセプトの明確さ」で選ぶ 新しさや設備だけで選ぶと、どこも同じに見えてしまいます。「歴史に浸る」「食を極める」「絶景を楽しむ」など、その旅で何を一番優先したいかをパートナーと話し合っておくことが大切です。富士屋ホテルは「歴史と格式」を求めるなら、これ以上の選択肢はありません。
- 「お籠もり」できるかを確認する 30代、40代の疲れは、観光地を詰め込むことでは解消されません。むしろ「宿から一歩も出なくても満たされるか」を基準に選ぶと、満足度が上がります。全室温泉付き、充実した館内施設、広い庭園がある宿は、それだけで価値があります。
- 「客層」を意識する 静かに過ごしたいのに、周囲が騒がしいとリラックスできません。大人専用、あるいは落ち着いた層に支持されている宿を選ぶことは、心の平穏を守るための重要なポイントです。
- 「予約のタイミング」を見極める 富士屋ホテルのような人気宿は、直前だと希望の部屋が埋まっていることが多いです。しかし、実は「3ヶ月前」などの早期予約特典や、逆に「平日の限定プラン」で驚くほどお得に泊まれることもあります。いつが一番お得か、定期的に予約サイトを覗いてみる習慣をつけると、賢く贅沢を楽しめます。
まとめ・行動喚起:次は、あなたが「時を編む」番です
箱根・宮ノ下、そして富士屋ホテル。ここで過ごす1泊2日は、単なる宿泊ではなく、自分たちの人生に新しい彩りを添える「体験」そのものです。
かつてこのホテルを愛した偉人たちと同じ景色を眺め、同じ風を感じる。それは、忙しない日常の中で忘れかけていた「心のゆとり」を取り戻す作業でもあります。パートナーと美味しい食事を囲み、温かい温泉に身を委ねながら、これまでのこと、これからのことをゆっくりと語り合う。そんな時間は、どんな高級なプレゼントよりも、二人の絆を深く結びつけてくれるはずです。
もし今、あなたが「どこかへ行きたいけれど、どこに行けばいいか分からない」「絶対に外したくない」と感じているなら、ぜひ宮ノ下を候補に入れてみてください。古き良き日本の誇りと、西洋の優雅さが溶け合うこの場所は、きっとあなたの期待を裏切りません。
旅の準備は、宿の写真を眺めることから始まります。まずは空室状況や、あなたにぴったりの宿泊プランがあるかを確認してみてください。季節ごとの特別なメニューや、期間限定のプランが見つかるかもしれません。
扉を開けた瞬間に広がる、あの木の香りと静寂。 富士屋ホテルが刻んできた140年の物語の中に、あなたの新しい1ページを加えてみませんか。
今回の旅の提案が、あなたの週末をより豊かなものにするきっかけになれば幸いです。もし、さらにおすすめの周辺スポットや、具体的な予算感について知りたいことがあれば、いつでも気軽にお尋ねくださいね。素晴らしい箱根の旅になりますように。